風土に根ざした設計思想?―その3
地権者の意向偏重?の開発
正月休み。栄図書館で似田貝香門(東大名誉教授)ほか編著の『まちづくりの百科事典』という全600ページを超す大著を借りてきました。
といっても、門外漢にとって都市問題の専門的な事柄などチンプンカンプンで、文字通りの拾い読み。ところが「都市再生政策とまちづくり」と題する事項の中に次のような記述があり、うぐいす団地の高層化の問題点だけではなく上郷開発はじめ「開発と環境」を考える上で大いに参考になりましたので抜粋を。「まちづくり」について関心のある方は、下段の引用記事と併せてご一読ください。(M&M)
* *
「都市再生政策とまちづくり」
・大規模開発―その多くはタワー・イン・ザ・パーク型である―を行うことを絶対的な「是」とみなし、そうした開発によって外部不経済を被る他主体の意向に無頓着な、さらに言えば他主体の意向を排除し得る計画システムをつくり出そうとしている。
・関連地権者のみの意向に偏った、言い換えれば外部への影響(外部不経済)をまったく調整しないまま開発が行われることが危惧される。これまでも日本の再開発は地権者のみの合意をベースに事業が進められることが多く、再開発に併せて都市計画の決定・変更が行われる場合にも、地権者以外の要望が取り入れられることはほとんどなかったのであるが。
・再開発は、本来、地域の空間的・社会的再生をめざすべきものでありながら、実際には、それがオフィスであれ住宅であれ周辺地域と空間的にも社会的にも隔絶した、しかし画一的な別世界を、大量生産的につくりあげてしまう。
* *
この項目を分担執筆したのは小泉秀樹氏という東大大学院工学系研究科准教授?です。
「小泉内閣が進めている都市再生関連政策はどのようなものであり、どのような問題があるのか、振り返ってみよう」というただし書きが示すように、新自由主義に基づく都市再生政策を俎上に書かれたものですが、外部不経済とのかかわりなど、環境問題をめぐる各地の紛争・トラブルの遠因を考える上で大いに参考になりました。
さて、身近なところでは二つの対応がありました。
地権者のみの合意をベースに事業が進められる――上郷開発における「都市計画提案」がまさしくそうでしたが、幸い横浜市都市計画審議会は「開発NO」の答えを出しました。
他方、うぐいす団地問題では地権者の利益最優先の建替え計画に横浜市建築審査会が「建築確認OK」の答えを出しました。
注:ここで言う「タワー・イン・ザ・パーク型」とは「超高層建築物と足下のオープンスペースの組み合わせ」のこと。 『まちづくりの百科事典』(2008年7月、丸善刊)
小泉さんの見解
なおついでながら小泉さん(秀樹さんの方です)のHPには、次のような見解(抜粋)も載っています。
<超高層+オープンスペース型都市像に偏らない多様な都市像と都市活動像の探求を支援すべき>
日本の大都市都心周辺は確かに生活環境上多くの課題を抱えている。しかし、生活環境の改善を、超高層・高層建築物と足下にオープンスペースの創り出す「近代的再開発」のみに偏って行うことには、都市で活動する主体の多様性を確保する観点からは問題がある。
ヨーロッパでは、超高層・高層+オープンスペース型都市像は、もはや採用されることは少なく、伝統的囲み型街区を基本とした再開発を行うことによって、高密度(容積率で300%弱)の都市型居住地を実現している。また、アメリカでも、街路沿いに賑わいを創り出す中高建層複合開発を集積させる「アーバンビレッジ」という開発コンセプトが急速に普及している。
日本の大都市においては、欧米と社会物的に多様な市街地形態が存在している。従って、各市街地に現存する「資源」と生活環境上の課題を手がかりに、個別的に多様な市街地を模索することが必要である。超高層・高層建築物+オープンスペース型都市像は多様な選択肢の一つにすぎないことを明確に理解したうえで、都市再生政策を組み立てる必要がある。
正月休み。栄図書館で似田貝香門(東大名誉教授)ほか編著の『まちづくりの百科事典』という全600ページを超す大著を借りてきました。
といっても、門外漢にとって都市問題の専門的な事柄などチンプンカンプンで、文字通りの拾い読み。ところが「都市再生政策とまちづくり」と題する事項の中に次のような記述があり、うぐいす団地の高層化の問題点だけではなく上郷開発はじめ「開発と環境」を考える上で大いに参考になりましたので抜粋を。「まちづくり」について関心のある方は、下段の引用記事と併せてご一読ください。(M&M)
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「都市再生政策とまちづくり」
・大規模開発―その多くはタワー・イン・ザ・パーク型である―を行うことを絶対的な「是」とみなし、そうした開発によって外部不経済を被る他主体の意向に無頓着な、さらに言えば他主体の意向を排除し得る計画システムをつくり出そうとしている。
・関連地権者のみの意向に偏った、言い換えれば外部への影響(外部不経済)をまったく調整しないまま開発が行われることが危惧される。これまでも日本の再開発は地権者のみの合意をベースに事業が進められることが多く、再開発に併せて都市計画の決定・変更が行われる場合にも、地権者以外の要望が取り入れられることはほとんどなかったのであるが。
・再開発は、本来、地域の空間的・社会的再生をめざすべきものでありながら、実際には、それがオフィスであれ住宅であれ周辺地域と空間的にも社会的にも隔絶した、しかし画一的な別世界を、大量生産的につくりあげてしまう。
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この項目を分担執筆したのは小泉秀樹氏という東大大学院工学系研究科准教授?です。
「小泉内閣が進めている都市再生関連政策はどのようなものであり、どのような問題があるのか、振り返ってみよう」というただし書きが示すように、新自由主義に基づく都市再生政策を俎上に書かれたものですが、外部不経済とのかかわりなど、環境問題をめぐる各地の紛争・トラブルの遠因を考える上で大いに参考になりました。
さて、身近なところでは二つの対応がありました。
地権者のみの合意をベースに事業が進められる――上郷開発における「都市計画提案」がまさしくそうでしたが、幸い横浜市都市計画審議会は「開発NO」の答えを出しました。
他方、うぐいす団地問題では地権者の利益最優先の建替え計画に横浜市建築審査会が「建築確認OK」の答えを出しました。
注:ここで言う「タワー・イン・ザ・パーク型」とは「超高層建築物と足下のオープンスペースの組み合わせ」のこと。 『まちづくりの百科事典』(2008年7月、丸善刊)
小泉さんの見解
なおついでながら小泉さん(秀樹さんの方です)のHPには、次のような見解(抜粋)も載っています。
<超高層+オープンスペース型都市像に偏らない多様な都市像と都市活動像の探求を支援すべき>
日本の大都市都心周辺は確かに生活環境上多くの課題を抱えている。しかし、生活環境の改善を、超高層・高層建築物と足下にオープンスペースの創り出す「近代的再開発」のみに偏って行うことには、都市で活動する主体の多様性を確保する観点からは問題がある。
ヨーロッパでは、超高層・高層+オープンスペース型都市像は、もはや採用されることは少なく、伝統的囲み型街区を基本とした再開発を行うことによって、高密度(容積率で300%弱)の都市型居住地を実現している。また、アメリカでも、街路沿いに賑わいを創り出す中高建層複合開発を集積させる「アーバンビレッジ」という開発コンセプトが急速に普及している。
日本の大都市においては、欧米と社会物的に多様な市街地形態が存在している。従って、各市街地に現存する「資源」と生活環境上の課題を手がかりに、個別的に多様な市街地を模索することが必要である。超高層・高層建築物+オープンスペース型都市像は多様な選択肢の一つにすぎないことを明確に理解したうえで、都市再生政策を組み立てる必要がある。