上郷開発NO! 5・17&18説明会レポート(続報)
宅地災害――それは「想定外」ではない 説明会の質疑応答から
地すべりや土砂崩れなどによる宅地災害――それは、「想定外」ではない。
先に当ブログでその一端を紹介した話題の新刊、釜井俊孝著『宅地崩壊 なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(2019.4、NHK出版)は、コンパクトな新書判ながら防災考古学の提唱者ならではの精密な調査と分析に基づき日本の宅地が抱える危機を浮き彫りにし、上記のように記します。
都計審での複数委員からの異論を振り切り、審議会長の強引な差配によって都市計画決定されて以後、ますます問題点が浮き彫りになった周回遅れの大規模宅地造成計画(工事)。
今回の説明会でも短時間の質疑応答の中であらためて想定された問題点(疑問点)が浮き彫りになり、横浜の都市行政、建築行政、まちづくりにとって大きな課題を突き付けるものとなりました。遅くなりましたが、質疑応答の概要をまとめてみました。
Q 質疑
1.栄区の住環境について
最近、人口減や高齢化にともなう地域社会の変容を示す各種の調査結果が新聞やTVで次々と報じられているが、緑地を壊して新たな住宅地をつくる開発計画は、地域の現状や開発が成った時の将来像と著しく乖離することが予見され、今となっては上郷開発事業は開発の必要性が全く見出せない周回遅れの計画であることが鮮明になってきた。
・横浜市全体の人口は今年がピークで2025年には2万人の減少となる。
・栄区と港南区の人口は既に約10年も前から減少に転じている。
・神奈川県下の限界集落26か所のうち、栄区には最高の6か所が存在する。
・栄区は空き家予備軍率が関東地方で第1位の32.2%という調査結果がある。
・上記データは数年前の国勢調査などに基づくものであり、開発が完成した時とのギャップは10年以上となる。
2.開発の成果について
開発によって利便性が向上、賑わいを取り戻し地域社会に資するとしているが、桂台などの周辺の住宅地では商店や医院の存続が危ぶまれるようになり、かえって利便性が低下する。限界集落化が加速して買い物難民、医療受診難民問題など逆に開発が地域社会に与える負の側面をいかに考えるか。
3.開発の安全面について
・法令等を満足していれば開発は認可されると考えられるが、昨年も法令に認可されたところで地盤災害などが沢山発生している。法令は災害が起きてから後追いで強化されてきた経緯がある。開発地の安全について将来長きにわたって保証できるのか。東急建設として単に法令に則り認可された施工でよしとするのか。
・開発を行うと道路や駐車場、建物の屋根など雨水を吸収しないところが増える。一時に雨水が流出しないよう調整池を設け、その容量は1時間に76mm程度の雨に対応するものと条例で定められているが、気象激化により、昨今日本中で1時間に100mmを超える雨が降るようになってきている。約5年前の台風18号の豪雨でいたち川の下流部4か所で川水が溢れ水害が発生している。このような大雨が降ると調整池が溢れ、大量の雨水が流出することとなり、一般論として開発により水害が増大するといえる。
A 応答
1と2について
港南台駅との間の空白地で開発が行われることによって街の連続性が生まれ、利便性が向上、賑わいを取り戻し、地域社会に資するものと信じている。
⇒横浜市も全く同じことを回答しており平行線(以下、回答の問題点を⇒で付記
3の地盤災害について
宅地造成法が2006年に改訂され、それに則った施工では2011年の大地震も含め災害は発生していないと2014年に国交省が文書を発信しており問題ない。
⇒昨年9月に横浜市の関係部署と開発計画の安全性に特化した面談を行った際、宅地審査課の職員が全く同じことを国交省からのお墨付きよろしく発言しています。これについては面談直後に国交省に電話し、この文書はそこまでの保証をしていないことを確認しています。すなわち調査対象が東北地方に限定されていることと、宅造法改定の各年次の取り方に問題があり、「この改定法に即し施工されたところは、それ以降災害が起きていない」と一般論として断言できない。
3の水害について
調整池は10分間に140mmの降雨に対応した容量があるので問題ない。
⇒これは、1時間に何ミリの話を10分間何ミリに時間単位を変えて、76mmより大きな数値を示すことで、一般参加者が問題はないと受け止めることを狙った回答。1時間に76mmの降雨の場合、同じ10分間に直せば200mm以上の降雨量となり、調整池は当然対応ができず溢れることとなる。同じ質問に対し17日は「調整池を設けて対応する」という回答だったので、18日さらなる質問を行ったところこのような答え方をしており、論点をはぐらかす意図ありか。
なお2の地盤災害については、17日に盛り土による造成地盤の長期安定性についても質疑が行われており、事業計画によれば地盤は外部から20数万㎥の土を搬入・埋立するものであり、埋立地の土質特性や地下水位等の地盤条件は未定であり、いずれ条件を設定して埋立造成地盤の計画・設計を行うことになるはず。しかし設定した条件が長期にわたって同じとは考えにくい。設計時の条件が変化した場合には地盤の安定性が確保されるか否か保証できない。地下水位や土質特性、地盤の変形等を長期にわたって観測する必要があるのではないかとの指摘が。
東急建設側の回答は当初「横浜市の指定する技術基準等に従って計画・設計を行う」というそっけない模範回答?だったことから、司会者が「長期の安定性についてはどうなのか」と再回答を促し、担当者が「安定性が確保されるように、今後対応していきます」と答える一幕も。閉会間際の質疑応答で、何をどうしていくのかよくわからない回答でした。
注:上記の質疑のうち空き家予備軍率は「戸建ての総戸数に占める高齢者のみ世帯の割合」から算出されたデータ。総務省「平成25年住宅・土地統計調査」に基づき東洋大学理工学部の野澤千絵准教授が『老いた家 衰えぬ街』(2018.12刊、講談社現代新書)で明らかにしたもので、栄区は東京の品川区と同率の1位。全国1位は北九州市門司区の38.2%。
どうする、上郷開発?
というわけで、ついでに4月24日付けのレポートで紹介した釜井俊孝さん(京都大学防災研究所教授)の著書もあらためて。
どうなる上郷開発!
地すべりや土砂崩れなどによる宅地災害――それは、「想定外」ではない。
先に当ブログでその一端を紹介した話題の新刊、釜井俊孝著『宅地崩壊 なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(2019.4、NHK出版)は、コンパクトな新書判ながら防災考古学の提唱者ならではの精密な調査と分析に基づき日本の宅地が抱える危機を浮き彫りにし、上記のように記します。
都計審での複数委員からの異論を振り切り、審議会長の強引な差配によって都市計画決定されて以後、ますます問題点が浮き彫りになった周回遅れの大規模宅地造成計画(工事)。
今回の説明会でも短時間の質疑応答の中であらためて想定された問題点(疑問点)が浮き彫りになり、横浜の都市行政、建築行政、まちづくりにとって大きな課題を突き付けるものとなりました。遅くなりましたが、質疑応答の概要をまとめてみました。
Q 質疑
1.栄区の住環境について
最近、人口減や高齢化にともなう地域社会の変容を示す各種の調査結果が新聞やTVで次々と報じられているが、緑地を壊して新たな住宅地をつくる開発計画は、地域の現状や開発が成った時の将来像と著しく乖離することが予見され、今となっては上郷開発事業は開発の必要性が全く見出せない周回遅れの計画であることが鮮明になってきた。
・横浜市全体の人口は今年がピークで2025年には2万人の減少となる。
・栄区と港南区の人口は既に約10年も前から減少に転じている。
・神奈川県下の限界集落26か所のうち、栄区には最高の6か所が存在する。
・栄区は空き家予備軍率が関東地方で第1位の32.2%という調査結果がある。
・上記データは数年前の国勢調査などに基づくものであり、開発が完成した時とのギャップは10年以上となる。
2.開発の成果について
開発によって利便性が向上、賑わいを取り戻し地域社会に資するとしているが、桂台などの周辺の住宅地では商店や医院の存続が危ぶまれるようになり、かえって利便性が低下する。限界集落化が加速して買い物難民、医療受診難民問題など逆に開発が地域社会に与える負の側面をいかに考えるか。
3.開発の安全面について
・法令等を満足していれば開発は認可されると考えられるが、昨年も法令に認可されたところで地盤災害などが沢山発生している。法令は災害が起きてから後追いで強化されてきた経緯がある。開発地の安全について将来長きにわたって保証できるのか。東急建設として単に法令に則り認可された施工でよしとするのか。
・開発を行うと道路や駐車場、建物の屋根など雨水を吸収しないところが増える。一時に雨水が流出しないよう調整池を設け、その容量は1時間に76mm程度の雨に対応するものと条例で定められているが、気象激化により、昨今日本中で1時間に100mmを超える雨が降るようになってきている。約5年前の台風18号の豪雨でいたち川の下流部4か所で川水が溢れ水害が発生している。このような大雨が降ると調整池が溢れ、大量の雨水が流出することとなり、一般論として開発により水害が増大するといえる。
A 応答
1と2について
港南台駅との間の空白地で開発が行われることによって街の連続性が生まれ、利便性が向上、賑わいを取り戻し、地域社会に資するものと信じている。
⇒横浜市も全く同じことを回答しており平行線(以下、回答の問題点を⇒で付記
3の地盤災害について
宅地造成法が2006年に改訂され、それに則った施工では2011年の大地震も含め災害は発生していないと2014年に国交省が文書を発信しており問題ない。
⇒昨年9月に横浜市の関係部署と開発計画の安全性に特化した面談を行った際、宅地審査課の職員が全く同じことを国交省からのお墨付きよろしく発言しています。これについては面談直後に国交省に電話し、この文書はそこまでの保証をしていないことを確認しています。すなわち調査対象が東北地方に限定されていることと、宅造法改定の各年次の取り方に問題があり、「この改定法に即し施工されたところは、それ以降災害が起きていない」と一般論として断言できない。
3の水害について
調整池は10分間に140mmの降雨に対応した容量があるので問題ない。
⇒これは、1時間に何ミリの話を10分間何ミリに時間単位を変えて、76mmより大きな数値を示すことで、一般参加者が問題はないと受け止めることを狙った回答。1時間に76mmの降雨の場合、同じ10分間に直せば200mm以上の降雨量となり、調整池は当然対応ができず溢れることとなる。同じ質問に対し17日は「調整池を設けて対応する」という回答だったので、18日さらなる質問を行ったところこのような答え方をしており、論点をはぐらかす意図ありか。
なお2の地盤災害については、17日に盛り土による造成地盤の長期安定性についても質疑が行われており、事業計画によれば地盤は外部から20数万㎥の土を搬入・埋立するものであり、埋立地の土質特性や地下水位等の地盤条件は未定であり、いずれ条件を設定して埋立造成地盤の計画・設計を行うことになるはず。しかし設定した条件が長期にわたって同じとは考えにくい。設計時の条件が変化した場合には地盤の安定性が確保されるか否か保証できない。地下水位や土質特性、地盤の変形等を長期にわたって観測する必要があるのではないかとの指摘が。
東急建設側の回答は当初「横浜市の指定する技術基準等に従って計画・設計を行う」というそっけない模範回答?だったことから、司会者が「長期の安定性についてはどうなのか」と再回答を促し、担当者が「安定性が確保されるように、今後対応していきます」と答える一幕も。閉会間際の質疑応答で、何をどうしていくのかよくわからない回答でした。
注:上記の質疑のうち空き家予備軍率は「戸建ての総戸数に占める高齢者のみ世帯の割合」から算出されたデータ。総務省「平成25年住宅・土地統計調査」に基づき東洋大学理工学部の野澤千絵准教授が『老いた家 衰えぬ街』(2018.12刊、講談社現代新書)で明らかにしたもので、栄区は東京の品川区と同率の1位。全国1位は北九州市門司区の38.2%。



というわけで、ついでに4月24日付けのレポートで紹介した釜井俊孝さん(京都大学防災研究所教授)の著書もあらためて。
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