風土に根ざした設計思想?
基地の町 もうひとつの注目点
上郷開発問題や港南台駅前の「うぐいす団地」の高層化建替え問題などに関連して、掲示板コーナーで開発と環境、そして「まちづくり」のルールを考える投稿と意見交換が続けられていますが、2010年が環境問題をめぐる新しい飛躍の年であることを願う観点から、新年の始動までのツナギとして1枚の写真をお届けします。
![image_sityousya[1]](https://blog-imgs-34-origin.fc2.com/s/e/g/segamizawa/20091229012055241.jpg)
名護市庁舎(沖縄県)
鉄骨鉄筋コンクリート造り3階建〔軒高14.6㍍ 最高21.6㍍〕
敷地面積12,201.1 ㎡ 延床面積6,149.1㎡。
……米軍の普天間飛行場(宜野湾市)の代替施設の移設先として全国的に注目を浴びている、あの名護市の市庁舎です。
名護市は人口わずか6万人の小さな町ですが、実は米軍基地の辺野古沖への移転問題、またそれを争点の一つに行われる市長選(1月24日投開票)とは別に、ぜひこの市庁舎の建物そのものにご注目ください。(あいにく未見ですが)
昭和45年(1970)、1町4村の合併により名護市が発足。庁舎は市政施行10周年の記念事業として昭和55年(1980)3月に着工、翌昭和56年4月に竣工しました。落成後すでに30年近い歳月を経ているわけですが、今ではすっかり地域の風物自然と一体化し、市民サービス&地域自治の拠点として市民に愛されているそうです。
さて、この市庁舎の設計コンセプトが「光と風と太陽と緑」。風土に根ざした設計として話題となった建物なのでご記憶の方もあると思いますが、設計は「象建築集団」という建築グループ。昨年12月、本ブログの掲示板で『小さな建築』というタイトルの本を紹介した富田玲子さんが所属する建築家グループの代表的な作品なのです。
でも、なぜここで名瀬市庁舎なのか?
富田さんは前記の本の冒頭で「小さな建築」について断り書きをしています。つまり「小さな建築」とは、寸法が小さいことではなく、心身にフィットする建築という意味なのですね。
「土地の気持ちに合う」「人の気持ちに合う」ものを、建築に携わる人たちはつくらなくてはいけない、というのが建築家としての富田さんのモットー。したがって例えば11階ぐらいが足で上り下りできる限度であり、なおまた木よりも建物が低いことをひとつの条件に挙げたりします。
さて実際はどうだったのか。
市庁舎建設のコンペには全国から308案もの応募が第1次段階においてあり、このうち5案を選出して2段階目の競技を行った結果、Team Zoo(象設計集団+アトリエ・モビル)の設計案が入選と決定したそうです。
設計の条件としては、敷地の立地条件、気象条件を生かすことはもちろん、省資源、省エネルギーを考慮し、大規模な空調方式に頼らないこと、地場材料・地元の施工技術を使いこなすこと、社会的弱者への配慮を行うこと、等々。
百聞は一見にしかず。理念と実際のギャップ、またそれが市民にどう受け止められているか、あいにくナマの声を聞くことはできませんが、地域社会における公共建築物あるいは大規模建築物がどうあるべきか、多くのサジェスチョンがここにはあると思うので、名護市役所のHPからそのコンセプトを転載します。(M&M)
(3)計画の4つの柱
ア 連続する地域環境の中で・・・
(ア)新しいアサギ広場をまちの中に
アサギ広場にこそ沖縄のコミュニティが凝縮されている。市庁舎は、まちにそびえる白亜の殿堂ではなく
「むらからまちへと連続する地域環境の文脈」のなかで捉えたい。市庁舎は新しいアサギ広場が必要である。
(イ)アサギの形態が建築のストラクチャーを決定する
アサギの建築様式は、軒が深く屋根を柱で支えている素朴なものである。これが風を取り入れ強い日差しか
ら守る沖縄の建築の原点である。この原点を市庁舎のストラクチャーとして形態と平面を決定していった。
イ 市民に開放された庁舎 略
ウ 2つの表情をもつ庁舎
(ア)大自然に呼応する環境構造線による敷地計画
名護岳、嘉津宇岳、名護湾、21世紀の森公園を結ぶ4本の軸線が、まちにひらく大広間、公園から湾にひ
らく日陰の広場、アサギテラスの方向性を決定する。
(イ)まちに向かうヒューマンスケール
住宅やマチヤグワァ、小ビルの建ち並ぶ街並みに連続する市庁舎の表情はアサギテラスの積層するヒューマ
ンスケールの世界だ。
(ウ)海に向かうスーパースケール
南側は国道バイパス、21世紀の森などの広々とした大スケールの環境が広がる。市庁舎の表情はこれらに 呼応して、すくっと立ち上がるのびやかな表情をもつ。
エ 光と風と太陽と緑
(ア)風のミチをつくる
外廊下、室内を貫通する風のダクト、高い欄干と床上の通風孔を交錯させ風のミチをつくる。
(イ)熱をさえぎる屋根
二重スラブ、土をのせた屋根、アサギテラスのルーバーなどは、太陽熱を遮断する。
(ウ)光と熱と緑が建物の表情をつくる
アサギのルーバーが落とす小さな日陰、公園に連続するピロティの大きな日陰など、人のあつまりに応じた いろいろな日陰をつくる。アサギのルーバーはブーゲンビレアやウッドローズがからみ緑で市庁舎をおおう こともできる。
(エ)分舎式の間取り 略
注:アサギテラス=アサギは沖縄古来の神を招いて祭祀を行なう場所のこと。
上郷開発問題や港南台駅前の「うぐいす団地」の高層化建替え問題などに関連して、掲示板コーナーで開発と環境、そして「まちづくり」のルールを考える投稿と意見交換が続けられていますが、2010年が環境問題をめぐる新しい飛躍の年であることを願う観点から、新年の始動までのツナギとして1枚の写真をお届けします。
![image_sityousya[1]](https://blog-imgs-34-origin.fc2.com/s/e/g/segamizawa/20091229012055241.jpg)
名護市庁舎(沖縄県)
鉄骨鉄筋コンクリート造り3階建〔軒高14.6㍍ 最高21.6㍍〕
敷地面積12,201.1 ㎡ 延床面積6,149.1㎡。
……米軍の普天間飛行場(宜野湾市)の代替施設の移設先として全国的に注目を浴びている、あの名護市の市庁舎です。
名護市は人口わずか6万人の小さな町ですが、実は米軍基地の辺野古沖への移転問題、またそれを争点の一つに行われる市長選(1月24日投開票)とは別に、ぜひこの市庁舎の建物そのものにご注目ください。(あいにく未見ですが)
昭和45年(1970)、1町4村の合併により名護市が発足。庁舎は市政施行10周年の記念事業として昭和55年(1980)3月に着工、翌昭和56年4月に竣工しました。落成後すでに30年近い歳月を経ているわけですが、今ではすっかり地域の風物自然と一体化し、市民サービス&地域自治の拠点として市民に愛されているそうです。
さて、この市庁舎の設計コンセプトが「光と風と太陽と緑」。風土に根ざした設計として話題となった建物なのでご記憶の方もあると思いますが、設計は「象建築集団」という建築グループ。昨年12月、本ブログの掲示板で『小さな建築』というタイトルの本を紹介した富田玲子さんが所属する建築家グループの代表的な作品なのです。
でも、なぜここで名瀬市庁舎なのか?
富田さんは前記の本の冒頭で「小さな建築」について断り書きをしています。つまり「小さな建築」とは、寸法が小さいことではなく、心身にフィットする建築という意味なのですね。
「土地の気持ちに合う」「人の気持ちに合う」ものを、建築に携わる人たちはつくらなくてはいけない、というのが建築家としての富田さんのモットー。したがって例えば11階ぐらいが足で上り下りできる限度であり、なおまた木よりも建物が低いことをひとつの条件に挙げたりします。
さて実際はどうだったのか。
市庁舎建設のコンペには全国から308案もの応募が第1次段階においてあり、このうち5案を選出して2段階目の競技を行った結果、Team Zoo(象設計集団+アトリエ・モビル)の設計案が入選と決定したそうです。
設計の条件としては、敷地の立地条件、気象条件を生かすことはもちろん、省資源、省エネルギーを考慮し、大規模な空調方式に頼らないこと、地場材料・地元の施工技術を使いこなすこと、社会的弱者への配慮を行うこと、等々。
百聞は一見にしかず。理念と実際のギャップ、またそれが市民にどう受け止められているか、あいにくナマの声を聞くことはできませんが、地域社会における公共建築物あるいは大規模建築物がどうあるべきか、多くのサジェスチョンがここにはあると思うので、名護市役所のHPからそのコンセプトを転載します。(M&M)
(3)計画の4つの柱
ア 連続する地域環境の中で・・・
(ア)新しいアサギ広場をまちの中に
アサギ広場にこそ沖縄のコミュニティが凝縮されている。市庁舎は、まちにそびえる白亜の殿堂ではなく
「むらからまちへと連続する地域環境の文脈」のなかで捉えたい。市庁舎は新しいアサギ広場が必要である。
(イ)アサギの形態が建築のストラクチャーを決定する
アサギの建築様式は、軒が深く屋根を柱で支えている素朴なものである。これが風を取り入れ強い日差しか
ら守る沖縄の建築の原点である。この原点を市庁舎のストラクチャーとして形態と平面を決定していった。
イ 市民に開放された庁舎 略
ウ 2つの表情をもつ庁舎
(ア)大自然に呼応する環境構造線による敷地計画
名護岳、嘉津宇岳、名護湾、21世紀の森公園を結ぶ4本の軸線が、まちにひらく大広間、公園から湾にひ
らく日陰の広場、アサギテラスの方向性を決定する。
(イ)まちに向かうヒューマンスケール
住宅やマチヤグワァ、小ビルの建ち並ぶ街並みに連続する市庁舎の表情はアサギテラスの積層するヒューマ
ンスケールの世界だ。
(ウ)海に向かうスーパースケール
南側は国道バイパス、21世紀の森などの広々とした大スケールの環境が広がる。市庁舎の表情はこれらに 呼応して、すくっと立ち上がるのびやかな表情をもつ。
エ 光と風と太陽と緑
(ア)風のミチをつくる
外廊下、室内を貫通する風のダクト、高い欄干と床上の通風孔を交錯させ風のミチをつくる。
(イ)熱をさえぎる屋根
二重スラブ、土をのせた屋根、アサギテラスのルーバーなどは、太陽熱を遮断する。
(ウ)光と熱と緑が建物の表情をつくる
アサギのルーバーが落とす小さな日陰、公園に連続するピロティの大きな日陰など、人のあつまりに応じた いろいろな日陰をつくる。アサギのルーバーはブーゲンビレアやウッドローズがからみ緑で市庁舎をおおう こともできる。
(エ)分舎式の間取り 略
注:アサギテラス=アサギは沖縄古来の神を招いて祭祀を行なう場所のこと。